私がオンライン証券のビジネスを始めるためにゴールドマン・サックスを辞めた時、同社は数ヶ月後に株式上場が決まっていました。当時、同社のゼネラル・パートナー(共同経営者)であったため、もう少し待てば数十億円を得ることができるというタイミングでした。しかし、その大金を捨ててでも起業する決断をしたのは、やらなければ後悔すると思ったからです。
正直なところ、いつ会社を辞めることが最適だったのかはわかりません。大切なのは、タイミングをはかることよりも、毎日手を抜かずに働くこと。人が見ているかどうかに関わらず、「自分」を基準にして十二分に力を出しているか、ということです。
そうした考えを持ったのは、小学生の頃に兄を亡くしたことが影響しています。生きたくても生きられなかった兄の分も、自分が怠けることは許されないと考えていました。それが慣性のようになり、特に社会人になってからは、入社したその日から全力で駆け抜けてきたように思います。

自分が新入社員だった頃を振り返ってみると、周りと自分とを比べて、同期の配属先をうらやましく感じたこともありました。しかし、たとえば自分が牛だとして、今の自分にはとても食べきれないくらい広い牧草地にいるなら、隣の広い牧草地をうらやましがるのは、意味のないことです。自分に与えられたフィールドで十分に役割を果たせていないのであれば、まずは今の自分の居場所で十二分にできるように頑張るべきだ。そう肚をくくると、気持ちが吹っ切れ、自ずと仕事ができるようになるものです。
私は人間の能力自体にはそんなに大きな差はないと思っています。しかし、全力で頑張っている人と、手を抜いている人では確実に差がつきます。
自分という素材を最大限に使いこなすためには、自らの基礎点を上げていくこと。常に80%の力しか出さずにいる人と、110%の力を出し続ける人とでは、2年間で基礎点に2倍の差ができる計算になります。これが10年続いたとしたら、見える景色はまったく違うものになるでしょう。
世の中を見渡せば、様々な職業があって、いろんな働き方がある。世の中のお金の流れは、ただ儲けて使うというだけではありません。ぜひ広い視野を持って世界を眺め、どうしたら自分が「本当に」豊かになれるのかという視点から、お金や人、そして社会との関わり方を考えてほしいと思います。