当社は、高機能化学製品を扱う会社です。当社の工場は福島県のいわき市にあるため、2011年に発生した東日本大震災の折には、大きなダメージを受けました。それでもその危機を社員一丸となって乗り切り、現在では逆にさらなる飛躍を遂げています。なぜそういうことが可能かと言えば、当社は一人ひとりの社員に責任を持たせ、各自で創意工夫をさせる方針だからです。そうすることで、かえって社員を厳しく管理するより、良い結果が出て、会社のためになるのです。
なぜ私がそうした姿勢に至ったかと言えば、もともと少年期から迎合を嫌う体質だったからです。青年期の私はあえて、進学先にアメリカの大学を選びました。最初は思うように言葉も通じない5年間で、大変な思いをしましたが、得たものは大きかったです。海外に出たことにより「日本」を知ることができたし、文化の背景が異なる人間を理解し、尊重できるようになりました。その後は紆余曲折を経て、父が社長を務めていた当社に就職したのです。
ところがその1年後、私が36歳の時、思いがけないことが起こりました。父が急逝したため、私が会社を継ぐことになったのです。そこで私は、いったん自分をカラにして、社員の声や他人のアドバイスを咀嚼し、現在の方法論を自分なりに編み出しました。それはまず、自分の身に起こることにはすべて意味があるととらえ、それを「直観」で把握するというものです。経営の現場では、思いもかけないことが発生しますが、それらをいちいち悩んだり考えたりする暇はありません。ただただ自分の直観を信じ、スピード感を持って挑むだけです。そうして日常の小さなことを、精一杯の努力でこなしながら、あまり先のことは考えないことが重要なのです。理由は、現代社会にあって長期の予測はそもそも不可能ですし、空疎な大目標を立てても、社員はついてこないからです。おかげで当社は、リーマン・ショックの逆境も克服できました。
若い方々に言いたいことは、年長者の言うことに従うのではなく、自分の直観と思考により、物事を判断してほしいということです。時代は急激に変化しています。先輩方の方法論はもはや使えません。そうではなく、皆さん一人ひとりが自分自身で決断を下せるようになれば、日本の夜明けも近いと信じています。