日本の旅館におけるホスピタリティは常に顧客の立場に立ったものでありながら、地域によって個性があると海外でも評価されており、その理由は、日本の旅館は現場を重視するからだと言われています。よって当社では、すべての社員が同じ情報や目標を共有しながら、状況によって誰でも現場の責任者になる方針を採っています。これを私は「フラットな組織」と呼んでいます。
私がこの考え方に至ったのは、学生時代にアイスホッケーに打ち込んだこと。そして、私が実家の旅館を再建するにあたり、試行錯誤を繰り返したことが挙げられます。
私は日本旅館の跡取り息子として生まれ、大学卒業後は海外の大学院で外国のホテル事情を学び、帰国しました。ところがその時、実家の家業は火の車。その後、10年以上にわたり実家の事業再建に取り組みました。もっとも苦労したのが、良い人材の確保でした。そこで個々のスタッフに、一つの業務をすべて任せてしまおうという発想が生まれたのです。

私が学生時代に没頭したホッケーでは、当然ながら、すべての試合が作戦通りにいくとは限りません。その時々で各選手の瞬間的な判断が要求され、現場で戦っている者にしか本当の現状は理解できないからです。それは仕事の面においても同様で、問題点やその対処法は、現場を知る者にしか察知できないものです。ならば一人ひとりのスタッフに裁量権を与え、自分で考え、自分で判断しながら業務を遂行してもらおうと考えました。そうすることでスタッフは成長でき、結果についても自分の事として受け止め、納得感を持ちながら仕事に打ち込むことができると確信したのです。
こうして方法論を確立した私は、1995年に社名を変更し、日本を代表するホテル運営会社となるべく、現在に至っています。すべてのスタッフがビジョンを共有し、マルチタスキングが求められる「フラットな組織」は、世界のホテル業における在り方とは正反対です。だからこそ、日本の運営会社として差別化が図れると信じ、2015年から海外展開も始まり、2016年は日本旅館にこだわった「星のや東京」の開業も予定しています。
若い方々も、そうした明確なビジョンを常に持ち、自分の人生における最終到達点を夢見ながら、大志を抱いてください。その時々の判断に納得のいく生き方を貫けば、きっと道は開けるはずです。