学生時代に経験した1人暮らしで、私は初めて家庭というオブラートを外して社会と接することになりました。そこで感じたのは、社会というものは非常にシビアであるということ。たとえば、所持金が1円でも足りなかったら電車に乗れないし、欲しいものを買うこともできません。そういう厳しさを感じながら、社会でうまく生きていくためには信用力を付けることが大切だと考えました。
学生時代から今に至るまで、私が座右の銘としているのは「百里を行く者は九十里を半ばとす」という中国のことわざ。物事は終わりの少しの部分に困難が多いから、90里まで来てやっと半分と考え最後まで気をゆるめるな、という戒めの言葉です。ミサワホームに入社して営業の仕事をしてから、特にこの言葉を強く意識するようになりました。というのも、次のような体験があったからです。
それは新しいお客様情報を10件入手したことから始まりました。その10件のお客様に対して訪問活動を展開し、9件のお客様にはお会いできたものの、最後のお客様だけは何回訪問してもお会いすることができません。しかし結果としては、その最後のお客様が家を建てようと考えていたお客様だったのです。

この体験で分かったのは、100%やりきらず90%で止めてしまえば、それはやっていないのと同じだということ。それを肝に銘じながらこれまで仕事を続けてきました。
もう一つ、野球の話をしましょう。プロ野球の世界では「3割バッター」というと一流選手です。一方、球団としてはチームに所属する選手には最低2割8分は打ってもらいたいと考えています。ですから、2割7分9厘以下の成績で終わってしまった場合は自由契約となってしまう可能性もあります。
では、3割バッターと2割7分9厘のバッターが打つヒットの数は何本違うのか。実は1ヶ月でたった2本です。このわずかな違いが結果として大きな差となり、人生がものすごく変わる。もちろん、これは野球選手に限らずビジネスパーソンでも同じです。
「戦略は細部に宿る」と言いますが、細部に気を遣い続けたわずかな差が結果として天と地ほどの差になってしまうのです。これから社会に出ていく皆さんには、このことを肝に銘じ、大いに活躍していただきたいと思います。