社会人生活は、理想的な会社に入ったからと言ってゴールではありません。もし60歳を定年と仮定するなら、社会人時代は40年近くあります。だからこそ、10年後、20年後に何を成し遂げたいのか。自分の目指すべきビジョンは何かを明確にすることが大切なのではないでしょうか。
大学卒業後、私は繊維関係の企業に就職しました。1960年代、繊維業界は花形産業で、まさに日本経済を牽引していたと言っても過言ではありません。私も工場で深夜勤務をしたり、入出荷業務を担当したりして、任された仕事にベストを尽くしていました。しかし、時代の移り変わりとともに産業自体が衰退していきます。そうした状況の中、経営陣の様子を間近で見ながら、違和感を覚えました。なぜ、危機を乗り越えるための解決策を出さないのか、と。しかし状況を俯瞰してみたら、それも当たり前のことでした。それまでは業界の勢いに任せていれば、売上を確保できた訳ですから。自らビジョンを決めて取り組んでいかなければ、根本的な成長は実現できないと痛感した瞬間でした。

その後、私は当社に転職して、最終的に専務を務めてから、2005年9月に退任しました。しかし2007年になって、会社の内情を窺い知ることになります。当時、後継者不在で社内に不安感が漂っているだけでなく、最終損益も赤字に陥っているという惨状だったのです。そんな時、私の元に社長就任の話が舞い込んできます。何といっても、30年近く在籍して、自分自身を育ててくれた会社です。窮地を救う助けになりたいと、その依頼を引き受けることにしました。
社長就任時、私は「安心感を持って働ける組織」というビジョンを掲げます。まずは、社員の不安を払拭して、存分に力を発揮してもらえる環境にしたいと考えたのです。また、公正で公平な評価制度を整えるとともに、福利厚生も充実させていきました。私のメッセージを、社員が感じ取ってくれたからでしょうか。就任3年目には黒字化を達成できて、少しずつ当初のビジョンの実現も現実味を帯びてきました。
どんな時もベストを尽くす姿勢は、もちろん社会人として重要です。そこに明確なビジョンが加われば、より力強く成長できるでしょう。自分の成し遂げたいことを思い描いて、ビジネスの世界で躍動していってほしいですね。