デジタル化が進んだ影響からか、昨今、早く結果を出すことが求められているのではないでしょうか。しかし人生はマラソンであって、100m走ではありません。仕事でも何かを成し遂げようと思えば、長い時間がかかります。人はもちろん、会社も技術も、一朝一夕で向上するのではなく、矛盾や挫折を経験しながら、少しずつ成長をしていくのです。
2001年に私は社長に就任しましたが、その年の正月に、父が急逝して、急遽会社のトップを任されることになりました。MBAを習得し、日米欧の大企業で働いてきましたが、それまで社長業の経験はありません。もちろん不安はありましたが、試行錯誤を繰り返して、自分なりの方法論を確立させました。その核となっているのが、直観力です。
直観力は、これまでの経験や知見によって養われます。そのため、まず客観的に自身を見つめて、本当の自分に気が付かなければいけません。エゴを捨て、うまくいかない時は反省を繰り返す。また、迷うことがあれば、哲学や歴史などの古典から学ぶ。そうすることで危機的な状況でも、瞬時に正しい道を判断できる直観力を身に付けることができるのです。

社長就任後、アメリカ同時多発テロやITバブルの崩壊、リーマン・ショック、そして東日本大震災と、様々な危機に見舞われましたが、直観力と社員の力で、激動の中を切り抜けてきました。現在、当社は、高機能化学添加剤メーカーとして、グローバルなマーケットで確かなポジションを築いています。多品種小ロットの生産方式や在庫戦略などで、過去最高益も6期連続で更新することができました。
これから高齢化による社会保障費の高騰や年金破たんリスクなど、いくつもの危機がやってくると予想されています。中でも、人口減少は、経済や社会の根底を揺るがすほどのインパクトを与えるでしょう。私たちは、大きな分岐点にいると言っても過言ではありません。若い世代には、優秀な方が多くいると感じています。しかし、低成長時代を生きてきたからでしょうか。諦観していて、突破する力が弱い傾向があります。変化が激しい時代では、誰も答えを教えてくれません。今まで以上に、自らの力で状況を打破していく必要があるのです。ぜひ自分の頭で考えて、多くの知見を吸収しながら、直観力で時代を切り拓いてほしいと思っています。