人間にも会社にも「心の故郷」と呼べる、自分にとっての原点があります。私は、高校生の時に地元の鹿児島で見た南極観測船の機能美に魅せられ、それ以降、船や機械の設計や製造をすることが自分の原点になりました。当社の場合は、長年続けてきたヤマハならではの”モノづくり“が、原点なのだと思います。
私がもっとも重要だと考えているのは、人も会社もピンチの時には原点に還る、成長していく時には原点を忘れないということです。これは私のこれまでの経験と、当社の歴史から言えることです。
大学で船について勉強した私は、当社に入社後、海外生産部へ配属になりました。これは、「大きなモノを造りたい」「海外で仕事がしたい」という私の夢が叶った結果でもありました。
その後、アフリカ勤務を経てアメリカへ駐在した私は、大きなカルチャーショックを受けることになります。日本では技術者同士が阿吽の呼吸で意思の疎通を図っていたにも関わらず、アメリカではすべてを図面で表現する必要があったのです。相手に自分の意志を伝えるため、合理的にコミュニケーションを図ろうとする姿は、私の心を強く打ちました。その後、日本に帰り社長に就任した私は、そうしたコミュニケーションの在り方を社内に浸透させていきました。

しかし当時は、ちょうどリーマン・ショックの最中。会社は何を捨て、何を成長させるかの選択に迫られていました。そうした時だからこそ私は、当社の理念を見つめ直し、原点に還り、モノづくりの分野で存在感を発揮させようとしたのです。おかげで状況を好転させ、さらに成長路線を突き進んでいくことができました。
顧客の価値観は日に日に変わっていくのですから、失敗することは仕方ない。大切なのはチャレンジすることと、それを継続することです。そうして初めて、お客様を満足させる製品を造ることができると信じています。
これから社会に出ていく若い方々にとって、現在の世界情勢は一見、灰色に映るでしょう。しかし実は、世界市場には大きなビジネスチャンスがまだまだ多く転がっています。つまり活躍できる場は、無数に存在するのです。日本に留まることばかりを考えないでください。世界基準で自分の得意分野と原点をしっかりと把握しながら、挑戦し、輝いてほしいと思います。