私が生まれたのは広島ですが、育ったのは東京の多摩ニュータウン。ごくごく一般的な中流家庭の子供として、なに不自由ない生活を過ごしていました。そこでは、多摩ニュータウンという場所が私にとってのすべて。「どこまで行ってもニュータウンが広がっている」と思っていたわけです。しかし中高時代に世界を知るようになり、国連職員になって恵まれない人々の役に立ちたいと考えるようになりました。そして大学に入った頃、インターンシップとして海外に行くチャンスが訪れました。訪問先はバングラデシュ、インターンシップ先は小口融資を専門にするグラミン銀行です。バングラデシュという国は今でこそ経済発展を遂げつつありますが、当時は世界一貧しい国といわれていました。グラミン銀行はそこであえて貧困層に対し無担保融資を行っていたのです。
そのインターンシップ先では素晴らしい人物に会うことができました。グラミン銀行の創設者であり、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏です。彼は、字が読めず、自分の名前すら書けない年収3万円程度のバングラデシュの貧困層に対して3万円を貸し付け、850万もの人たちの経済的自立を創出した人です。その彼の前で「地球から貧困をなくすためにはどうすればいい?」など、議論が白熱することがありました。そんなとき、ユヌス氏はこう言ったのです。「地球を救うという仕事は楽しくないとダメ。笑顔がなくなっているぞ」と。そして最後にニコッと笑って「Enjoy. Have Fan! 楽しんでやっているか」という言葉を掛けてくれたのです。世界から貧困を撲滅する。こんなことを話すと、「格好つけてるんじゃない? そんなこと本当にできるの?」と言う人がいます。しかし、行動しなければなにも変わりません。まずは、できることを、できる人たちだけで始めればいいわけです。

最近はスマートフォンを使えば、すべてがわかると思うかもしれません。しかし実際に行動しなければ、何一つ新しいものは生まれません。私が事業を起こしたきっかけも、バングラデシュで食料事情に直面し、この状況を改善するためにはミドリムシが有効だと判断したから。なにもスマートフォンを捨てろとは言いません。まずは電源をオフにして、行ったことがない国や地域に行ってみてください。そこで得たドキドキやつらい思いは必ず、その後の人生に大きく影響を与えてくれるでしょう。