私は、毎年当社の新入社員に、夢を持つことの大切さ、また自分が人生において実現したいこと、何のために働くのかを明確にし、その目的の達成のために今できることを考えるよう話しています。しかし、実は、そのような話をするのは、私自身が若いころ、それができていなかったという反省からです。
創業者の祖父、二代目の父のもとで、日常的に経営の話を聞きながら育った私。将来は会社を継ぐのだろうと小さな頃から思っており、プレッシャーも感じていました。しかし、それは、自分が何をしたいのかを本気で考える姿勢とはいいがたいものでした。大学卒業後、取引先の専門商社に入社し、6年働いたのち当社に入社、製造や営業の部署で働きましたが、その頃も、目の前の仕事をこなす感覚が強かったと思います。
2010年に社長に就任し、初めて、父ではなく自分が経営する意味はどこにあるのか、自分は何のために仕事をするのか、という疑問に直面しました。祖父は、とにかく機械が好きで、「ものづくり」に人生を賭けた人です。そして父は、人材を育てる「人づくり」に尽力し、現在の組織の礎を築きました。では自分は何を目標にすればよいのか、悩む日々が続きました。

思いついたのが「幸せづくり」という言葉でした。これまで築いた高い技術と、優れた技術者、営業担当者ら、人材の能力を100%活かし、ニーズにきめ細かく応え、ほしいものをほしいときに納入できる体制を築き、お客様に幸せをもたらす。そして、社長と社員が同じ目線で語り合い、自分で考え、動き、課題を解決できる環境をつくることで、いきいきと働け、社員一人ひとりが幸せをつかめる会社にする。この目的が明確になったことで、経営の軸ができました。仮に、今日人生が終わっても、目標に向かって後悔しない仕事をしてきた、と言える自信がついたのです。
もちろん、若い時に、明確な目標を見つけるのは難しいことです。しかし、探し求め、考えることはできます。「達成できる、できない」ではなく、自分の心と素直に向き合い、小さな枠は取り払って考えることです。
一日一日を大切に、新たなことをとことん学ぶ姿勢で、本を読み、旅をして、人と会ってみてください。それにより、次第に、自分の一生の目標にすべきことが見えてくるのだと思います。