大学卒業後に入社した製薬会社では、MR(医療情報担当者)として毎日数多くのドクターに会いに行き、話をすることが仕事でした。そこで強固なヒューマンリレーションを築けたことは、今でも私の大きな財産となっています。当時はまだ「医薬分業」という考え方は根付いておらず、診療を受けた病院内で薬を処方されることが普通でした。1956年に医薬分業法が制定されてはいたのですが、報酬上の手当がなかったことからなかなか浸透せず、現在のように患者が薬剤師を選ぶことはできない状況だったんですね。在職中にトップMRを獲得した褒賞として海外視察の機会を得た際、欧米の医薬分業を目の当たりにし、いずれ日本にも必ず医薬分業の時代が来ると感じました。1974年に処方箋料が引き上げられた時、それは確信へと変わりました。
そのまま企業で働き続ければ、たとえ社長になったとしても、いずれは辞めなくてはなりません。しかし私は死ぬまで働きたかった。自分で調剤薬局を起業したら命ある限り仕事ができる。ドクターからの要望もあり、今の仕事に踏み切りました。当初は医薬分業について一つひとつ説明しなくてはならなかったのですが、ドクターとのヒューマンリレーションを大切にして信頼関係を構築した結果、初年度から黒字の業績をあげることができました。薬剤師が活躍する場を広げたいという強い信念の下、現在も業績を伸ばし続けています。
高い教養と強い倫理観を持ったドクターから多くの感銘を受け、お話しをするたびに生きている実感を得ることができました。また、ドクターのような社会的地位の高い方とヒューマンリレーションを築くことが好きで得意でしたので、この仕事は誰にも負けないという強い気持ちを持っていました。常に自らやるべき仕事を課し、自分自身との戦いに打ち勝っていくということを積み重ねてきたからこそ、今の私があると思っています。
学生の皆さんもぜひ自分の持ち味を知り、自分が向いていることを徹底して行ってほしいと思います。そのためには就職する前に自分のオリジナリティを知っておく必要があります。それを一生懸命に追求する中で、自然と他を凌駕する力が身につくのだと思いますし、その方が日々充実して楽しい。一日が生涯だと思って、楽しく、明るく、闊達に、自分の人生を展開していって下さい。