私が社長に就任した2005年当時、当社の離職率は28%でした。それから育児休暇制度を充実させるなど、社員が働きやすい環境を整えて4%へと減らしたのですが、それは私が”社員思い“
だったからではありません。社員が辞めない組織作りこそが経済合理性に適していたからそうしたわけで、単純に新しい社員の採用や教育にかかる膨大なコストを減らしたかったのです。これは私自身が三人の子の父親になってわかったことですが、子育ては母親一人に任せられるものではなく、夫婦が協力してようやく乗り切れるもの。日本の社会がそのサポートを怠ってきたから出生率が下がり少子高齢化も進んだのです。私はまず、この状況から変えていきたいと考えています。現代は男性が外で働き、女性は家で子育てという時代ではないのです。
今の若い人を見ていると、そうした古い常識にとらわれず自由な発想で物事を考えるので非常に期待しています。これからの社会を作っていく彼らには、本当の意味で”個性的“であることが求められるでしょう。今はインターネットを通じて世界中の人と出会うことができますが、その分、自分は何ができるのか、自分は何が好きなのかがはっきりしていないと活躍することは難しいと思います。限られた集団では一番でも、世界規模になるとその他大勢に埋もれてしまうことが多々ありますから。
私を例に挙げると、「グループウェアおたく」という部分では確実にオリンピック選手レベルですね(笑)。世の中にソフトウェア好きはたくさんいますが、グループウェアだけを好きという人はなかなかいないでしょう。ただ、個性とは相対的なものですから、どんどん他者との接点を持ってほしい。それがリアルだろうとSNSだろうと、個性の形成に繋がると思います。
また、社会へ出ることに不安を抱く人も多いと思いますが、その不安とはしっかり向き合ってほしいと思っています。インテル社の社長だったアンドルー・グローヴ氏が自身の著書で「極度に心配性の人間だけが生き残れる」と語っていますが、まさにその通り。変化の激しい社会を生き抜くためには、常に危機を感じ、アンテナをはりめぐらせていなければいけないのです。これからの世の中は決して安泰ではないですから、不安を避けるのではなく、むしろ大事にしてほしいと思います。