私は少年時代から、周囲の声に流されたり、常識をそのまま受け入れたりということに大きな抵抗がありました。狭い世間の外に出て、自分の目で見て、自分なりに考えたいという思いが強く、それはいつしか外国への関心として表れていったのです。
そして20歳の時に初めて米国に留学し、その後国内化学メーカーに入社しましたが、大学院に進学し再び米国へ。そこでMBAを取得し、欧州の飲料会社、米国の航空会社で勤務しました。
父が経営する城北化学工業に入ったのは2000年のこと。入社一年後、36歳で父の急死により社長に就任しました。経営経験が全くない中、社員や取引先と対話を重ね、現地調達等で外国の取引先を開拓するなど改革を進めてきました。現在も頻繁に海外に赴き、各国の企業との交渉に臨んでいます。
ビジネスの世界に限らず「グローバル」という言葉が安易に使われていますが、その本質が理解されているのか疑問を持っています。海外に行くのは非常に簡単になり、インターネットで世界中の情報が手に入るようになりました。その意味ではグローバルに違いありません。しかし、受動的に海外の情報を受け取ったり、ことさらに外来語を並べて話したりすることがグローバルなのではありません。

私が海外の経験で本当に見出したのは、自国の言葉や文化でした。西洋思想やアメリカのビジネス理論を学ぶことで、日本の歴史、禅などの思想の理解が深まったのです。そして、良いところも悪いところも踏まえて、様々な国の方と徹底して議論する。それこそが、真のグローバルなのだと思っています。
社長就任以来、9・11同時多発テロ、ドットコムバブルとその崩壊、リーマンショック、そして東日本大震災と、想像できないような出来事が次々に起こりました。当然とされていた価値観が一瞬で崩れるような出来事の連続です。「正解」がない時代、多くの人が迷っているようにも感じます。
そのような時代を生き抜くために必要なのは「哲学」と「直観力」です。数千年の人間の英知である古今東西の本を読み、幅広い人の話を聞き、かつ既存の思想、年長者や立場ある人の話を真に受けるのではなく、受け止めつつ自分の頭で咀嚼する。それが一瞬の決断を生む「直感力」を育みます。若い皆さまが、自分なりの哲学をもとに力強く決断し、未来を築き上げていけるよう願っています。