「大きな夢は持たなくてもいい」。私はあえて、若い皆さんにそう伝えます。学生のころから大きな夢や目標を持っているのは一部の人。9割ぐらいの人は、「将来こうなりたい」と明確な夢を持っていないのではないでしょうか。
そんな皆さんは、社会人になり仕事をしていく中で、たくさん失敗や経験をしながら、その中で本当に自分のやりたいことを見つけていけばいいのです。正直なところ、私も学生時代は「このままずっと学生が続けばいいのに」と思っていました。若手時代から「大きく出世したい」「社長になりたい」と思っていたわけでもありません。
私に転機が訪れたのは、日本IBMに入社してしばらくたってからの頃。IBMが買収した子会社へ、社長として出向する機会が訪れたのです。その会社へは、いわば会社を畳むための社長として出向したので、経営ビジョンを掲げるなど、社長らしいことがほとんどできませんでした。そのため役目を終えて本社へ戻ったとき、大きな悔いが残ることになりました。その悔しさから、一念発起し会社を辞め、ベンチャー企業の社長に。困難もありましたが、マイクロソフトの執行役員も経験し、現在はシスコシステムズの会長として大きなビジョンを掲げながら会社を経営しています。

そのような経験の中で、若い頃からやっておいてよかったと思うことは、会社以外のネット―ワークを持つということです。忙しく仕事をしていると、自分の世界が会社だけになってしまいがち。ですが私はプライベートな時間には、会社外の様々な業種の人たちと関わり合いを持つよう心がけていました。その結果、外の世界との繋がりからIT業界を客観的に見る目が培われ、後の仕事に大きく活きたと感じています。
私の好きな言葉に「和して同ぜず」というものがあります。「和」はチームで仕事をするうえで大切。とくに今は「競争」から「共創」の社会になってきています。ですが、共創と同調は似て非なるもの。協力するのは大切ですが、周りと同じになってはいけません。
今の若い人は、社会のことをよく考えていて、素晴らしいと感じます。その一方、周りに合わせて「いい子」でいなければならないという意識を持っている方が多い印象もあります。そうではなく、自分の個性をさらに発揮して欲しいですね。働くことは自己実現をするということ。「自分はこういう人間である」と己をしっかり持ち、周りにどんどん発信していくことが大切だと私は思います。