私がこの会社に一つだけ残せるとしたら、それは「人」。人生にはお金も必要ですが、人のような無形資産こそが、人生を豊かにする鍵になると思うからです。

人生の中で家族と触れ合う時間がどれだけあるか、社内に親友と呼べる存在はいるか、肉体的にも精神的にも健康でいられるか。これらを潤わせるのは、個人だけでなく会社の役目でもあると考えています。これからは、仕事だけを充実させればいいという考え方は流行りません。私が目指す会社の姿は、働くためだけの場としての会社ではなく、社員とその家族が生活する場としての顔も持つ会社。コロナで在宅勤務が増えた現在、家が仕事場になりました。そうすると今度は、会社が人の集まるホームのような存在になってほしい。そう願っているのです。

今の若い方々はとても優秀です。私たちの世代よりもはるかにコミュニケーション能力が高く、自己発信力もあります。しかし我々の時代は大企業主義でした。どこの会社に属しているかで、自分の価値が決まるような時代だったのです。今はそのような時代ではありません。会社に入り、仕事を通して、どのように自己表現をしていくのか、自身の仕事にどのような付加価値をつけて行くのかが大切になってくるのではないでしょうか。弊社でも、社員が３００人いたら、３００人それぞれが、個性を生かしたリーダーになれるような会社を目指しています。

若い方々に大切にしてほしいことは二つあります。一つ目は、「興味を持ったことには主体的にチャレンジする」という姿勢。人生で無駄な時間はありません。私も若い頃は様々な経験をしましたし、もちろん失敗もしました。ですが今思い返すと、過去の経験が、仕事に活きていると感じる場面が沢山あります。主体的に物事に取り組んでいれば、たとえそのとき失敗したとしても、いずれ何らかの形で役に立つ日がくる。苦労した経験も、のちに応用して仕事に活かすことができるのです。

二つ目は、「自分と違う価値観を受け入れる」ということ。いい人との出会いは人生を豊かにします。自分と違う価値観を大切にし、共生の精神を持ってほしい。自分にはない他者の価値観を受け入れることで、自分自身も成長できるのです。「競争」の時代は、我々の世代でもう十分です。これからは「共生」の時代へ移り変わっていくでしょう。他者の価値観を受け入れ、よりよい社会を作っていかなければいけないと思っています。