子どもの頃、「将来、何になりたい?」という質問が大の苦手でした。跡取りという意識はあったものの、時代背景も手伝い「自ら父や祖父の描く夢のバトンを受け継いで育てていく」という発想に至るはずもありませんでした。大学卒業後は大手食品メーカーに事務職として就職しましたが、何をやってもうまくいかない日々が続きました。今振り返ると自分に合わないことばかりを選んでいたと感じます。当時女性の就職は一般職が当たり前でしたが、男女雇用機会均等法が施行され、女性を取り巻く環境が変わり始めた時代でもありました。
一方で私には高い志があったわけでもなく、時代に逆らう気概もなかった。20代後半になって初めて自分の使命は何か真剣に考え始めたのですが、学生時代から将来像をしっかりと描いていたらどんな道になっていただろうと思います。1997年に当社に入社、2010年に3代目を拝命しがむしゃらに走り抜け、おかげ様で個人では到底得られなかったようなご縁にも数々恵まれ、今は毎日が楽しくて仕方ありません。
ありがたいことに毎年母校での講演の機会をいただき自分の体験談をお話しすると、多くの後輩から「夢を語っていいんですね」と驚かれます。夢を語れば語るほど、冷たい視線が注がれてしまうような世の中の風潮もあるようです。無限の可能性を持つ若い世代が、夢も希望も描きづらい世界で生きている、我々大人が作ってしまった社会を改善したい思いに駆られます。
今の若い方々へ、夢を語るところから人生は始まるということをお伝えします。「就職にあたりどんなスキルや資格が必要ですか?」と聞かれる度に、「学生時代にしか出来ないことに思い切り打ち込んでほしい」と答えています。社会人として必要な知識や教育は、就職後に学べば充分であると私は考えています。それよりも学生時代にしか出来ないことを全力で楽しめば、その経験が必ず自らの血肉となります。
良い製品を生み出す源には、人柄の良い企業文化という土台が必須です。そして私が先陣をきって成長し続けていくことが肝要だと考えています。当社の人財教育の肝は心の教育であり、我々は「心磨き」と呼んでいます。祖父も父も純粋に仕事を愛し、自分の利よりもビジネスパートナー様やお客様に喜んでいただくことを第一に考え、豊かな社会の実現に一生を費やした人でした。
私は3代目としてその志を受け継ぎ、若い皆さんとともに夢を語りながら、愚直な心磨きに取り組むのみと心に決めています。