私は幼少期のころから職人への憧れがありました。とくに高所での作業を恐れず、力強く、さっそうと働くとび職人の姿に、言いようのない「かっこよさ」を感じていました。私自身が職人の道へ進んでからも「”かっこいい“とはどういうことか」は、ずっと追求するテーマとなってきたのです。

思い出すのは24歳の時のこと。小さな建設会社の役員として順調に業績を伸ばしていましたが、あるお客様への売掛金が回収不能となり、連鎖する形で経営が破綻。私は会社の借金の一部を背負うことになってしまいました。その時、私の腕を買った地元の建設会社二社から社員として入社の打診を受けました。しかも借金を肩代わりしてくれるという好条件です。しかし一緒に働いてきた従業員を差しおいて、自分だけ再就職することに抵抗を感じたため、丁重にお断りし、起業して負債を返済していく道を選びました。迷いがなかったといえば嘘になりますが、自分自身が「かっこいい」と思えない選択をすれば、一生後悔すると思ったのです。

起業後は昼夜問わず、必死に働きました。また特殊な専門工事技術を導入し、職人の育成に力を入れることで、付加価値の高い事業を構築。借金は順調に減り、数年で完済することができました。やはり職人はかっこいい仕事です。自らの技術と身体能力、プライド、責任感など「心技体」を磨くことで人から必要とされ、相手の期待以上の仕事をすれば満足を超える「感動」を与えることができます。道路も橋も建造物も、職人の「心技体」が具現化したものであり、そこにはITやAIが発展しても失われることのない価値があるのです。

私は経営者ですが、生涯現役の職人であるという意識も強くあります。会社組織を次世代に引き継いだ後は、いち職人に戻り、自分の心が動く現場に参加して技術を提供する。そんな未来を思い描いたりもしています。理想の職人の在り方を考えた末、たどり着いた言葉があります。それは「行雲流水」。行き交う雲のように、流れる水のように、自由でありながら流れに逆らわず、一つの形に執着しない。孤独は恐れないが、時に志を同じくする者と共に大きな力をなす。これが生涯追い求める職人像、ひいては人間像といえます。

若い方々には、まず自分の人生は自分のものであること、自らの思うところに正直に生きることの大切さを伝えたいと思います。行く先には苦難もあるでしょう。しかしそれは成長のチャンスです。自分が自分であるところの「信念」を曲げなければ、変化を恐れることもありません。自信をもって前へ進んでほしいと思います。