自分の原点のひとつは、学生時代に得た礼節を重んじる心でした。中高を地元から離れた寮で過ごし、挨拶や礼儀といったものを叩き込まれたことは今も自分のためになっていると感じています。例えば先輩後輩といった上下関係も、相手を敬う気持ちを持つこと、周りの人への気遣いをする上でかけがえのない学びとなっていました。また当時、父からもらった「社会に出ると理不尽なことばかりだから、ハートは強くしておけ」という言葉もよく覚えています。
寮生活では、何があっても一度始めたからには絶対にやめるなという意味で、先輩から「穴(ケツ)を割るな」とよく言われていたのですが、その実体験が「最後までやり抜く」という今の自分のこだわりになっています。そして自分が社長に就任したのはリーマンショックの1年後。商社勤めを経て、入社したときは父の跡を継ぎ「絶対に社長になる」と決めていたため、営業で成績を出し、単身赴任でアメリカにも行きました。その後、ちょうどリーマンショックの時期に帰国したのです。
そこで初めて会社の財務がどんな状況なのかを理解しました。当時は売上の倍以上の借金があり、父から「どうする?」と自分が進むべき道を迫られることになったのです。社長になるという志で入社したものの、それまで父がずっと見せてくれていたトップの姿から、社長というのは心のバランスを保つのが大変な仕事だとも思っていました。とは言え、やるなら「穴を割ってはいけない」とも感じていました。
初志貫徹と覚悟した私は、「社長をやる」と父に伝えたところ、「まずは専務をやれ」と言い渡されました。どうやらリーマンショックという非常に困難な時期に絡めて、私に継ぐ意思があるかを探ったようなのです。そこからは無我夢中でした。社長に就任したあとには、売上も倍以上に伸び上がり、やり続けることの積み重ねがいかに大切であるのかということを教わったような気がします。
そして、もうひとつ自分が座右の銘として大切にしているのが「運」です。何かを成し遂げるときには「運」がないとダメだと思っています。どうしたら運が手に入るのかというと、それはポジティブに顔を上げ続けていくことに他なりません。これは父の口癖でしたが、「諦めた時点でゼロ」なんです。現状を受け入れ、まずは「やってみよう」と自分の持っているものを活かせば、それが良運に繋がります。そして挑戦したことがうまくいけば、「自分には運がある」という証になるでしょう。
自分が前向きに”穴を割らず“、相手を思い続ければ、その運に引き寄せられるように人が集まってくるものです。若い方々も、そうした縁を大切にすることを忘れずにいてください。