私は3歳まで孤児院で育ち、その後、養父母に引き取られました。しかし母はギャンブル好きな父に愛想をつかして家出。15歳までは父のもとで暮らしています。家賃や電気代を払えず、家を転々とし、ロウソクを頼りに暮らすような、今思い出してもひどい生活でした。授業料を払うこともできず、欲しいものを買うことなど叶いません。高校時代はとにかくアルバイトに精を出し、その日暮らしを続けています。
高校卒業後、名古屋にある不動産会社に就職したのち、大和ハウス工業株式会社に転職。そこで事務員だった今の妻と出会いました。彼女は社員の面倒な頼みも快く引き受ける気持ちのいい人で、その魅力に瞬く間に惹かれていったのです。結婚し、23歳の時に不動産業で独立しましたが、社交的な妻を見て喫茶店経営をしてみないかと提案したところ、二つ返事で開業が決まりました。名古屋市内の物件に決めたのは、同じ日のことです。
名古屋には、コーヒー1杯にトーストやゆで卵などが付くモーニングや、おつまみのピーナッツを無料で付ける文化が根付いていました。しかし私たちはそうした文化には従わず、我流の喫茶店経営を続けています。定石通りではなくても、お客様からお叱りを受けながら教えていただくことで、日々改善はできるものだと考えていたからです。また、モノによる付加価値は提供しない代わりに、接客を大切にすることを心掛けていました。
そして3号店の出店を検討していた際、店舗での提供だけでなく、デリバリーも行うことを思い付いたのです。そこで提供メニューをカレーと定めたのは、サンドイッチのような軽食よりも、デリバリーに向いていると思ったから。一般的にはスパイスの調合や煮込む時間にこだわるものですが、それでは自己満足のカレーになってしまうでしょう。それよりも家で食べるような一般的なカレーが一番喜ばれるのではないかと考え、それがCoCo壱番屋の原点となっていきました。多くの人が食べて普通においしいと思えることに加え、接客には常に力を入れ、笑顔の絶えない清潔な店舗を実現していったのです。そうした基本に忠実なこだわりが、お腹を空かせて来店されるお客様の満足度に繋がっていったのでしょう。
現代は、真面目に経営をしないと続けられない厳しい時代だと私は思っています。自分の仕事を振り返ってみると、決めたことを一生懸命、ただ誠実に続けてきただけでした。それに尽きるのです。欠品は絶対にありえませんでしたし、例え1分でも遅く開けたり、早く閉めたりすることもありませんでした。若い方々も、自分のやるべきことと真摯に向き合い、その一つひとつを誠実に続けてみてください。その積み重ねが、後に大きな自分の財産となっていくはずです。