私のキャリアのスタートは営業職でした。他のお菓子メーカーさんもひしめく大阪に配属され、初めは苦戦を強いられたことを思い出します。しかし一生懸命に仕事を続けていくうち、お客様との信頼関係が築けるようになっていきました。次第に注文が増えていったのです。それが嬉しくて、今度は私からお客様にお返しをしたいと思うようになりました。何かしていただいたらその分お返しするのが商売だと体感し、学んだことでもあります。それが私の原点でした。

転機となったのは、２０１３年の大阪勤務を終え、東京の広域営業部を経て水戸支店に支店長として配属された時のことです。当時は自信も経験も身に付いてきた頃で気負いもありましたし、自分は自分、人は人という考えが少なからずあったのかもしれません。しかし、上の立場に立って懸命に働く社員を見守る中で、周囲の人がいてこそ自らの仕事も成立するのだと痛感するようになりました。感謝の気持ちを忘れてはいけないと、齢40手前でようやく気が付くことができたのです。その後、約２年間の勤務を経て広域営業部に戻った時にはすっかり角が取れ、よく人の話に耳を傾け、何事も協力的に行うことが自身のポリシーとなっていきました。

社長就任後は改めて、「自分が好きなこの会社をもっと良くしていきたい」と強く思いました。お菓子メーカーとして独創性を持ち、お客様の喜ぶ品質の高いものを作ることが使命でもあるからです。そのためには夢とアイデアをたくさん持ち、入社してきた若手の中に息づくマグマのように熱い思いを噴出させてあげることが自分の役割だと思い至りました。だからこそ、「もっと自由闊達に思い切ってやりなさい、何かあれば社長が責任を負いますから」と、常日頃から私の思いを伝えるようにしています。

新商品の開発にも私は全く口を出しません。デザインや試食など、事あるごとに社長に伺いを立てなくてもいいと思いますし、何より前線に立つ開発者たち自身が決めることだと思うからです。ブランドの考え方、ターゲット、イメージといった基本的な枠だけは社内で一貫し、後は各ブランド担当に任せることが大切だと考えてきました。

そして私が常々思っているのは、社員が「この会社に入って良かったな」と感じ、さらに社員の家族も「この会社に入って良かったね」と喜んでもらえることに他なりません。

そんな中で若い方々に伝えたいのは、人生は先が長く、山谷もありますが、悪い状況の時にいかに考えるかということ。悪い時こそ自分の未熟さを客観的に見つめる時間だと思って前向きに捉え、次に備えてほしいと思うのです。そして何かを達成した時も決しておごらず、周りの力があってこそだと謙虚な心を忘れず、さらに上を目指していくための学びを続けていってください。