私は30年以上にわたり、医院・福祉施設などの建築設計業務や福祉施設・店舗の自社運営を行う会社を経営しています。当社で働いていた設計の社員の中には独立した方も多くおり、各々活躍しているため、業界では設計の”学校
とも呼ばれてきました。
ただ、私は技術やセンス、設計に対する考え方は伝えてきたと自負しているものの、人として大事なことを伝えられていなかったと感じることがあります。当社の”卒業生“たちが育ち、一緒に頑張っていけたらいいのですが、ライバルとして対立することもあったのです。
世の中にはさまざまな”士“が付く職業がありますが、設計士も社会に貢献する立場として、「士」たるもの、人としての大切なこと、それを伝えられていなかったと感じ、10年くらい前からそのことを伝えていくようにしています。
現在一緒に働く社員は、独立しても十分やっていける能力がある方ばかりです。しかし誰も独立したいとは言いません。10人以上の設計士が在籍していますが、人数分の設計事務所が集まったくらいの力を持っていると思っています。また年に1回、給料の交渉ができる場を設け、実績を踏まえた上で本人から希望額を提示し、一対一で話をしています。それが皆のモチベーションになり、やりがいに繋がっているようです。

今ではこうして多くの人に支えられ経営も軌道に乗っていますが、私は誤解されたことがきっかけで独立することになりました。誤解された時は、つらくて悲しかったですし、会社を経営する中で大変なことがありながらもここまでやってこれたのは、「諦めたくない気持ち」とそれを支えてくれたバディや仲間だと思っています。一人じゃ分からないこともたくさんあるため、信頼できる人を見つけ、自分にできることを追求していくことが大切なのだと思います。
今後はこれまで経験してきたこと、失敗したことも含めて人に伝えることで役に立てたらと思っています。
ほかにも社会貢献事業として、障がい者の雇用や防災関連、日本は地震が多い国なので非常食にも使えるパンの缶詰めプロジェクトを進めています。現在販売されているパンの缶詰めは、あくまで非常食で味は重視されていません。そこでベーカリープロデューサーとタッグを組み、出来立てに近いようなパンの開発に注力してきました。さらに、イタリアンのシェフと共同で地域の特産品を使った食材などを用い、ギフト缶にし、地域の活性化にもつなげていきたいと考えているところです。防災にも役立ち、海外の災害時に送るなど国際貢献にもなると考えています。今後も人と人が繋がっていく事業を展開していく所存です。
若い皆さんにも多くの可能性があるのですから、情熱を持ち、好きなことを形にしていく「諦めない心」を持つべきだと私は思います。