当社は1902年創業の化学系総合商社です。創業家が代々経営にあたってきましたが、私は事業を継ぐことなく教師になりました。それは当時、父との会話から私の出る幕がないと感じたことと、大好きだったバスケットボールを続けるためでもあったからです。教師になれば指導者としてバスケに関われるので、幼少から親しみ学んできた「化学」の教師として10年間働いてきました。
そんな折に父親が他界し、急転直下、教師を辞めて父の跡を継ぐことになります。化学の知識はありましたが、ビジネスの世界では右も左もわからないルーキーに他なりません。そこで私は、10年分の遅れを取り戻すため、三倍速で生きる決意をしました。自ら色々なことに取り組んでいったのです。仕事はもちろん人の三倍速、仕事が終われば経営や財務の勉強、工学博士号の取得と、目まぐるしい日々を過ごしました。それでもやり抜いたのは「会社をなんとかしなきゃ」という一念があったからでしょう。
経営者となって改めて、教員時代に出会った偉大な先生たちのことを思い出します。偉大な先生とは教え上手、説明上手を指すわけではありません。生徒のハートに火をつけられる先生のことです。優れた先生は長所を見抜き、人を成長させる存在と言えるでしょう。こうした先生方から学んだことの一つひとつが、今の私の礎になっていると言っても過言ではありません。

日本社会はとかく欠点に目が行きがちで、ミスに厳しい風潮があると感じます。世界は逆に、失敗やそれを乗り越えた経験が多い人ほど、新しい事業を起業する際に信頼を得る風潮があります。しくじりも大切な成長要素なのです。「短所だけではなく長所を見る」、それは私が人と出会った時、物事を見る時に常に心がけていることです。弊社は「良かったこと分析」会議を定期的に行っています。それはなぜうまくいったのか、ピンチはどうやって切り抜けたのかを皆で共有していきます。失敗を取り上げるよりずっとポジティブな会議です。
現代は長所にフォーカスすると、面白いチャレンジが無数に転がっている社会だと思います。これはバスケも仕事も同じです。特に商社は仕事の幅があり、自身で自分に合った仕事を作り上げていくことも可能です。そういった面白さを社員には感じて欲しいと思っています。時にミスしてもそれを糧にし、個性を活かして何かを成し遂げることは、人生を面白くする大事な要素だと思うからです。
私から若い皆さんへ伝えたいことは、ミスを恐れずチャレンジし続けてほしいということです。まさにスラムダンクの名言にある「負けたことがあることがいつか財産となる」、「あきらめたらそこで試合終了」なのです。あらゆる経験が未来に向かう化学反応を起こし、新しい何かを作り上げる源になっていくでしょう。