私は中学二年生ぐらいから職人として父の仕事を手伝い、27歳のときに会社を継ぎました。建築基礎工事を行う私たちの仕事は土に穴を掘りますが、弊社の現場のそばを通った方は、「遺跡の発掘調査ですか」と驚かれる方もいます。埋めてしまう穴ではあるのですが、きれいに穴を掘り、砂利も平に敷いて、一つずつの工程を丁寧にしてきれいに見える努力をしているからでしょう。そうやって仕事を続けていると、お客様や工務店さんからの評価が徐々に上がり、営業せずとも仕事が頂けるようになりました。仕事というのは、1から10まであるうち、10で帳尻を合わせるのではなく、1から帳尻合わせていかないと綺麗に完成しないものだと私は考えています。「どんなに一生懸命やっていても仕事が雑」であれば、継続して仕事をいただくこともできないのです。
昨年、弊社が携わっている建設現場の裏に住まわれているお客様から、「工事の様子をずっと見ていて『綺麗だな』と思っていました。基礎工事が素晴らしかったため、自宅を建て替える際に依頼したいので、ぜひ工務店さんを紹介してください」と弊社に話がきたことがあります。やはり誰かは見てくれている仕事なのだと実感しました。手を抜くことは決して許されない仕事なのです。
昨今の建築業界では、多くの大手企業が参入しています。職人さんが大手で仕事を始めると、値段が安くても永続的に仕事はありますから、安い値段で使われてどんどん稼げなくなってしまう現状もあります。その反面、大手の傘下に入らず、町の工務店で仕事を受けると、稼げるものの利益が出る仕事は大手に奪われてしまうことも多々あります。大手の参入によって全国ネットでの仕事が主流になり、地域の優秀な職人さんが淘汰されてしまうという悪循環が起こってきました。
そんな中でも、現場で知り合った多くの若い職人さんは意欲を持っており、「仕事が途切れないようにするにはどうすれば良いですか?」と相談を受けることも増えています。たとえ学歴がなくても、肩書がなくても、仕事を覚え、お金を得て税金を払えば社会から信用を得ていくこともできます。この仕事は約束事さえしっかりと守れば、自分のペースでできる自由で素晴らしい職業だと私は思っています。しかし、それを実践するためには技術を習得し、何より本人の努力が必要不可欠となることは言うまでもありません。
だからこそ、若い方々に伝えたいのは、どの時期に苦労するかが大事だということです。20代は一番吸収しやすく体力もあり、何でもできる時期です。そこで先に努力して頑張ることができれば、30代になってから頑張るよりは早く自由を手に入れることもできるかもしれません。ぜひ今こそ踏ん張り時だと思って頑張ってほしいと願っています。