父が私を待ち構えていたのは、会社ではなく、喫茶店でした。当社は父が創業した会社です。その頃の私は当社の営業本部長として、「靴下屋」の某有名ファッションビルへの全店出店などを実行し、売上100億円を達成した時期でした。そのような状況の中、父に喫茶店に呼び出されました。父は私に当社について書かれたWebページを見せ「お前がこれを書いたのか」と怒るのです。そこには「社長である父の『職人基準のものづくり』から、息子の『顧客ニーズに合わせた商品展開』への改革により、危機的状況を乗り越えた」といった記載が。もちろん私は書いていませんでしたが、父は自身への批判と捉え、私をその場で解雇しかねない剣幕でした。
私の感想は「まあいいか。転職するか」でした。あっさりしすぎているでしょうか。でも、想像してみてください。アクションゲームの最終面で、火を吹く怪物が待ち構えていたとします。「どういう理由で火を吹くのだろう」「こっちは火を吹けないのに不公平だ」などと思っていても、状況は好転しませんよね。とにかくその怪物は火を吹くものだと受け入れて、倒す方法を考えればいい。そういった感じで、私は状況を冷静に見つめていました。
結局、周囲の執り成しもあり、私は1週間後には職務へ復帰することに。そして結果的に、父に社長就任を言い渡されました。そのときも父からは「本当に社長ができるのか」と言われましたが、私は「社長はあくまで一つのポジションにすぎない。社長になれば、社長の仕事をするのみ。部長であろうが、課長であろうが、私のスタンスは変わりません」と伝え、現在に至ります。
何事もこだわらず、切り替えが早いのが、私の長所なのです。経営者やスポーツの監督など、世の中のリーダーたちは、実は共通点はあまりないと考えています。カリスマ性で引っ張るタイプもいれば、誠実にチームを支えるタイプもいる。つまり、自分らしさを突き詰めた人が、結果的にトップに立つ存在になるのだと思うのです。
「自分らしさが何なのかわからない」という方は、まずは自分の長所を把握することをおすすめします。「自分の長所も見つからない」という方は、友人に言われたことのある「あなたって○○だよね」といった言葉をヒントにしてみてください。周囲があなたに対して感じている特徴や強みが隠れていることが多いです。
そしてプロとして働くには、自分の長所を活かせる仕事を選ぶことが重要です。自分の長所を理解せず、やりたいことだけを追いかけると、成果や影響力は不安定になりやすいもの。シビアに聞こえるかもしれませんが、単に好きなことをやるのは学生時代まで。自分のやれることを仕事にするのが、プロとして活躍するための近道であり、より良い人生へとつながるはずです。




