熊本の高校を卒業後、東京の大学を目指して浪人を機に上京しました。住んでいたアパートの近くにあったのが、赤と白の縦模様が印象的なモスバーガーの店舗です。現在では緑の看板が定番となっていますが、当時の店舗は赤白のストライプが象徴的でした。
ある日、お腹が空いてその店に入り、メニューの一番上にあった「モスバーガー」を注文。一口食べた瞬間「うまい!」と3回ほどつぶやいたのを今でも覚えています。それ以来すっかり気に入り、週1回程度のペースで通うようになりました。店員さんとも顔なじみになり「浪人生なんだね。勉強頑張ってね」と声をかけていただくこともありました。
当時の私の夢は弁護士になることでした。大学の法学部を卒業後、司法試験に挑戦しましたが、惜しくも合格には届きませんでした。それでも勉強を続けていましたが「そろそろ定職に就かなければ」と考えるようになりました。そんなとき、知人がモスフードサービスに勤務していることを偶然知ります。あのモスバーガーの会社だと知り、自然と入社意欲が湧きました。コネ入社が嫌だった私は、ほかの就活生と同じく一般の面接試験を受け、法務部に採用されることになりました。
入社後は、若いうちに法務部門の管理職を務める機会に恵まれました。その際、先代社長であり創業者の櫻田慧氏から「アントレプレナーシップを持って仕事をしてほしい」と言葉をいただきました。アントレプレナーシップとは、自ら行動を起こし、新たな価値を生み出す”企業家精神“を意味します。
しかし当時の私は、その言葉の意味をまったく知りませんでした。法務の知識には自信があったものの、経営については何もわかっていない。そう痛感しました。英語が堪能な同僚に尋ねたり、本を読んだりしましたが、深い理解には至りませんでした。そこで夜間の大学院に通い、経営を体系的に学ぶことを決意したのです。
本業との両立は決して簡単ではなく、通常2年のところ3年かかりましたが、無事に修了することができました。大学院で得た知識は、今も組織づくりに大いに役立っています。努力の積み重ねが、少しずつ視野を広げ、リーダーとしての自信を深めていけることも実感できました。
モスバーガーを心から好きだという「熱い心」と、キャリアに必要な知識を学び続けた「冷静な頭」。この二つを持ち合わせていたことが、私の強みだったのだと、振り返ってみて思います。現代のビジネス環境は、かつてないほどのスピードで変化しています。そのような時代を生き抜くためにも、若い皆さんには、自らの心を動かすものを信じ、常に学び続ける姿勢を大切にしてほしいと思います。その過程で得られる小さな成功や学びが、将来の大きな力となるはずです。





